心はよく彷徨う。
戻し方は、練習できる
彷徨うこと自体は普通。ただ、戻し方には差がある
作業中に、まったく関係ないことを考えている——これはめずらしいことではないと報告されています。ただし研究では、心が彷徨っているときは、いま何をしているかに注意が向いているときよりその瞬間の幸福感が低い傾向があるという関連も報告されています。彷徨い自体を責める必要はありませんが、戻す練習には意味がありそうです。
これを1回やっただけで、すぐ集中力が戻るとは言い切れません。今回確認できた根拠の多くは数週間にわたる継続的な練習についてのもので、単回の短い練習だけを対象にした確かな根拠は見つかりませんでした。また、長期の追跡は、今回調べた範囲では報告されていません。
誰のための研究ノートか
向いている人
- 作業中、気づくと別のことを考えていることが多い
- 彷徨うこと自体を「悪いこと」と決めつけず、根拠を知った上で向き合いたい
- できることなら、数週間かけて練習を試してみたい
向いていない人
- 注意や気分のことで専門家の支援を受けている、または必要と感じている方は、まず専門家へ
- 「一度やれば治る」「集中力が保証される」という即効性を求めている方(当サイトは断定しません)
何が、どこまで言えるのか
B一定の根拠 心の彷徨いはよくあることで、気分の落ち込みと関連すると報告されている。
スマートフォンで実生活中の思考をサンプリングした大規模な調査では、人は「いま起きていないこと」を考えている時間が、「いま起きていること」を考えている時間とほぼ同じくらいだったと報告されています。そして、心が彷徨っているときは、そうでないときに比べてその瞬間の幸福感が低い傾向があるという関連も示されました。この関連は、何を考えていたか(楽しいことかどうか)に関わらず見られたとされています。
限界:これは1件の大規模な観察研究です。彷徨うと幸福感が下がるのか、それとも幸福感が低いときに彷徨いやすいのか、因果の向きまでは、この研究だけでは断定できません。
出典:Killingsworth MA, Gilbert DT.「A Wandering Mind Is an Unhappy Mind」Science, 2010. doi:10.1126/science.1192439
B一定の根拠 心の彷徨いには、コストと役に立つ面の両方があると報告されている。
心の彷徨いを扱った研究をまとめたレビューでは、彷徨いはミスの増加などのコストと関連する一方で、創造性や将来の計画といった役に立つ面もあわせ持つと報告されています。また、彷徨いを整える働きには、意識的にコントロールする力(実行機能)が関わるとされ、いくつかの工夫によって彷徨いのマイナス面を減らしつつ、プラス面は保つことができる可能性があるとまとめられています。
限界:この文献は多数の研究をまとめたレビューであり、「工夫」の中身や効果の大きさまでは、この記事のブロック3の個別の研究(下記)で補っています。レビュー単体から具体的な数値は導けません。
出典:Smallwood J, Schooler JW.「The science of mind wandering: empirically navigating the stream of consciousness」Annual Review of Psychology, 2015. doi:10.1146/annurev-psych-010814-015331
A比較的確かな根拠 心の彷徨いは、研究の場では「持続的注意課題」という方法で測られている。
研究の世界でよく使われる測定法のひとつに、持続的注意課題(SART)があります。これは、画面に次々と出る数字などに反応しつつ、ごくまれに出る特定の数字(例:3)だけ反応を止める、という課題です。ぼんやりして注意がそれると、止めるべき場面で誤って反応してしまう——この「うっかりの誤反応」の増え方や、直前の反応スピードが速くなる(=雑になる)パターンから、注意がどれだけ課題からそれているかを推定します。この方法を最初に示した研究では、日常生活での「うっかり」の自己報告や周囲からの報告と、課題の成績が関連することも確認されています。
限界:この元の研究は、脳の損傷がある人とない人の両方を含むもので、一般の集団全体の彷徨いの頻度を示すものではありません。あくまで「どうやって測るか」の方法論として参照しています。
出典:Robertson IH, Manly T, Andrade J, Baddeley BT, Yiend J.「'Oops!': performance correlates of everyday attentional failures in traumatic brain injured and normal subjects」Neuropsychologia, 1997. doi:10.1016/S0028-3932(97)00015-8
B一定の根拠 2週間のマインドフルネス訓練コースで、彷徨いが減り、成績が上がったと報告されている。
ランダム化比較試験(介入群と対照群を比べる、質の高い研究デザイン)では、2週間のマインドフルネス訓練コースを受けた人は、受けなかった人に比べて、読解試験の成績とワーキングメモリ(作業中に情報を保持する力)の両方が上がり、同時に課題中に頭に浮かぶ関係のない考え(彷徨い)が減ったと報告されています。
限界:この成績向上は、もともと気が散りやすかった参加者において特に強く見られたと著者ら自身が述べています。つまり全員に同じだけ効くという結果ではありません。また、これは2週間のコースの効果であり、1回だけの短い練習の効果を示すものではなく、参加者も試験対策中の人に限られます。
出典:Mrazek MD, Franklin MS, Phillips DT, Baird B, Schooler JW.「Mindfulness training improves working memory capacity and GRE performance while reducing mind wandering」Psychological Science, 2013. doi:10.1177/0956797612459659
C限定的な根拠 短期のマインドフルネス訓練プログラムでも、彷徨いが減った例が報告されているが、まだ予備的な段階。
職場など実際の現場向けに作られた短期のマインドフルネス訓練プログラム(MBAT)について、5件の追跡調査(参加者計304人)をまとめた分析では、訓練を受けたグループは受けなかったグループに比べて、自己報告による彷徨いや、課題中の反応のばらつきが減ったと報告されています。
限界:これは著者ら自身が行った一連の研究を、自分たちでまとめた「内部」の分析であり、独立した第三者による大規模なメタ分析ではありません。著者ら自身も「予備的な概念実証」であり、より大きな規模のランダム化比較試験が必要だと明記しています。
出典:Price MM, Zanesco AP, Denkova E, Barry J, Rogers SL, Jha AP.「Investigating the protective effects of mindfulness-based attention training on mind wandering in applied settings」Frontiers in Psychology, 2023. doi:10.3389/fpsyg.2023.1232598
B一定の根拠 彷徨いには「意図した彷徨い」と「意図しない彷徨い」があり、区別が必要だと指摘されている。
心の彷徨いに関する理論的なレビューでは、彷徨いは意図的に起きる場合と、意図せず起きる場合の両方があり、この2つは異なる性質を持つ(分けて考えるべき)と指摘されています。つまり、あえて考え事に浸ることと、気づいたら考え事をしていたことは、同じ彷徨いでもわけて捉えたほうがよいということです。
限界:これは当時「まだ新しい区分」として紹介されたレビューです。区別の重要性は指摘されていますが、この文献自体は新しいデータを示すものではありません。
出典:Seli P, Risko EF, Smilek D, Schacter DL.「Mind-Wandering With and Without Intention」Trends in Cognitive Sciences, 2016. doi:10.1016/j.tics.2016.05.010
A比較的確かな根拠 睡眠が十分でないと、崩れた(もて余す)タイプの彷徨いが増える傾向があると報告されている(観察研究中心で因果は示されていない)。
睡眠と自発的な思考の関係を調べた系統的レビュー(21件の研究をまとめたもの)では、睡眠の質が低い・不眠の症状が多い・日中の眠気が強い、あるいは実験的に眠りを制限した場合に、「まとまりのない」「本人にとっても崩れた」タイプの彷徨いや空想が増える傾向が報告されています。一方で、前向きで建設的な空想(アイデアを練るような彷徨い)とは、はっきりした関連は見られなかったとされています。
限界:時間帯(朝型・夜型など)による変動については、結果が一貫しておらず、まだ結論が出ていないと著者ら自身が述べています。「何時に眠ると良いか」までは、この文献からは言えません。
出典:Cárdenas-Egúsquiza AL, Berntsen D.「Sleep well, mind wander less: A systematic review of the relationship between sleep outcomes and spontaneous cognition」Consciousness and Cognition, 2022. doi:10.1016/j.concog.2022.103333
注意を戻す方向を、根拠と手間で並べる
ここでは商品ではなく、「どの方向に取り組むか」を並べます。根拠(ブロック3)で支えられているのは、いずれも継続や習慣を前提にした方向であり、単発の裏ワザではありません。
| 方向 | 根拠レベル | 手間 | 時間の目安 |
|---|---|---|---|
| 呼吸など、ひとつの感覚に注意を戻す練習 | B(2週間コースで報告) | 中(継続が前提) | 数週間かけて習慣化 |
| 作業を区切って短く休む | B(メタ分析) | 低 | 1時間ごとの目安 |
| 意図的な脱線を、否定せず受け入れる | B(区別の指摘) | 低(考え方の切り替え) | その場で |
| 睡眠を整える | A(系統的レビュー) | 中 | 習慣化に数週間 |
※作業を区切って短く休むことの根拠は、22件の研究をまとめたメタ分析で、疲労感の軽減・活力の回復と関連すると報告されています(作業の成果への効果は統計的に有意ではないと報告)。詳しくは当サイトの仕事中の回復で別途まとめています。今回の調査では、彷徨いそのものとの直接の関連までは確認していません。数値・期間の目安は各出典の記述にもとづくもので、個人差があります。
研究とは分けて——やってみた所感
以下は編集部(平田)の主観的な体験で、ブロック3の研究的な根拠とは区別しています。効果を保証するものではありません。
- 彷徨っていることに気づいた瞬間、責めずに「いま何をしていたか」に注意を戻すだけで、案外すぐ作業に戻れる日が多かった。
- 彷徨うこと自体を止めようとするより、戻る合図を決めておくほうが続けやすかった。
- 寝不足の日は、彷徨いが増えるというより、彷徨いから戻ってくるまでに時間がかかる感覚があった。
あなたなら、どれから
- 今すぐ何か試したい → 彷徨いに気づいたら、責めずに呼吸へ注意を戻す。その場でできる。
- 数週間、腰を据えて取り組める → マインドフルネスの練習を、区切って毎日少しずつ。
- 彷徨うこと自体を責めたくない → 意図的な脱線として受け止め、無理に止めようとしない。
- 夜、まとまった睡眠が取れていない → まずは睡眠を整える方向を。睡眠環境を整えるもあわせてどうぞ。
この記事について
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- 編集
- 平田拓也(個人運営)
- 更新日
- 2026年9月15日
- 評価方法
- 編集方針・根拠評価方法を参照
- 出典
- Killingsworth & Gilbert, Science, 2010(doi)/ Smallwood & Schooler, Annual Review of Psychology, 2015(doi)/ Robertson ら, Neuropsychologia, 1997(doi)/ Mrazek ら, Psychological Science, 2013(doi)/ Seli ら, Trends in Cognitive Sciences, 2016(doi)/ Cárdenas-Egúsquiza & Berntsen, Consciousness and Cognition, 2022(doi)/ Price ら, Frontiers in Psychology, 2023(doi)/ Albulescu ら, PLOS ONE, 2022(休憩のメタ分析・doi)
測って、試して、もう一度測る
読むだけで終わらせず、いまの自分の状態を短いチェックで測ってから試し、しばらくしてもう一度測ってみる——それが、この記事をいちばん活かす使い方だと考えています。